こんなニュースを見つけました。
TVer、10周年プロジェクト始動。「TVerの日」制定、初の縦型ショート動画機能ローンチへ
https://branc.jp/article/2025/10/26/2056.html
「テレビの無料見逃し配信」を今や当たり前の文化にした立役者、TVerがサービス開始から10周年を迎えるそうです。単なるお祝い事と捉えるのは、少し早いかもしれません。発表された一連のプロジェクトは、さながらテレビというメディアの未来を占う、壮大な社会実験の幕開けのようにも見えます。ふと、この一手は動画配信業界の勢力図を塗り替えるほどのインパクトを秘めているのではないか、そんな思いが頭をよぎりました。
「TVerの日」制定、ただの記念日に非ず
10月26日を「TVerの日」として記念日協会に認定させた一手。これは非常に興味深い戦略でしょう。多くの企業が周年記念を祝いますが、TVerはそれを一歩進め、社会的な「記念日」へと昇華させました。これは、ユーザーへの感謝を示すだけでなく、TVerというブランドを日常の文化に溶け込ませようという強い意志の表れです。渋谷PARCOでのイベントや「いらすとや」とのコラボLINEスタンプも、その一環。こうした施策は、ユーザーとのエンゲージメントを深め、コミュニティの一体感を醸成します。いわば、単発の花火で終わらせず、毎年思い起こさせる「仕組み」を作ったわけですね。ユーザーの心に「TVerって、私たちのためのサービスなんだ」という特別な感情を、そっと植え付けようとしているのかもしれません。
縦型ショート動画、若者の可処分時間を奪う一手
そして、目玉の一つが初の「縦型ショート動画機能」の導入です。これは明らかに、TikTokやYouTubeショートが席巻する若年層の可処分時間を狙い撃ちにした戦略です。テレビコンテンツへの入り口としてショート動画を活用し、フル視聴へ繋げたいという思惑が透けて見えます。とはいえ、その道のりは決して平坦ではないでしょう。一般的なコンバージョン率は数パーセントと言われる世界。「面白いショート動画だったな」で終わらせず、本編へと指を動かさせるには、UI/UXの巧みな設計と、コンテンツそのものの圧倒的な魅力が不可欠になります。まさに「言うは易し、行うは難し」。この難題に、テレビ局連合であるTVerがどう立ち向かうのか、業界全体が固唾を飲んで見守っているはずです。
AIは創造主か、それともただの忠実な道具か
今回の発表では直接言及されていないものの、分析データからは「AI活用」という未来のキーワードが浮かび上がってきます。特に興味深いのは、AIによるクリエイティブの品質担保という論点。AIが生成したコンテンツも、結局は人間の労力や独自性、付加価値がなければ評価されないという事実は、私たちに重要な示唆を与えてくれます。少し脇道にそれますが、AIがプロットを生成し、人間がそれをリライトして文学賞を受賞した例もあるとか。これは、AIが人間の創造性を代替するのではなく、むしろ拡張するパートナーとなり得る可能性を示しています。TVerが将来的にAIをどのように活用するのかは未知数ですが、単なるレコメンドエンジンに留まらず、コンテンツ制作の領域にまで踏み込む未来も、そう遠くないのかもしれません。
巨人と戦うTVerの「KPI」という名の羅針盤
さて、TVerが対峙しているのは、NetflixやYouTubeといったグローバルな巨人たちです。彼らと戦う上で、TVerは何を「成功」の指標、すなわちKPIに置くのでしょうか。月間アクティブユーザー数か、総再生時間か、はたまた広告収益か。実のところ、プロジェクトの成功を測る指標は多岐にわたり、予算遵守、ステークホルダー満足度、そしてROI(投資利益率)など、様々な側面から評価されるべきものです。この「何をKPIに置くか」という問いこそが、TVerのビジネスモデルの根幹であり、最も難しい経営判断と言えるでしょう。この羅針盤の設定一つで、TVerという船の航路は大きく変わってしまうのですから、その舵取りには大きな困難と、それ以上の期待が集まります。
テレビの再発明へ、我々は何を目撃するのか
TVerの10周年プロジェクトは、単なる機能追加やキャンペーンの集合体ではありません。それは、「テレビを開放し、もっとワクワクする未来を」というビジョンの下、テレビというメディア自体を「再発明」しようとする野心的な試みです。ショート動画で若者と繋がり、記念日で文化を創り、AIで未来を拓く。一つ一つの施策が、壮大な未来図を描くためのピースに見えてきます。この挑戦が、視聴者に、そして業界に何をもたらすのか。私たちは今、歴史の転換点の目撃者なのかもしれません。

